カンカカリャー根間ツル子師 〜神に呼ばれし宮古島〜

やっと経歴も大御所に辿り着きました、カンカカリャー根間ツル子師です。(*カンカカリャー、神に仕える人)
ツル子師との出会いで欠かせない女性がいる、名前は写真に映る水野しづえさん。
ツル子師との出会いは、しづえさんからの一本の電話から始まった。

「今週末、那覇で待ち合わせしない?」
『えっ?那覇??待ち合わせ???今週末!?』
「そう、那覇で待ち合わせよ、今週末だよ。」
『……ねぇねぇ、私は岩手県に住んでいるんだよ。何を言ってるの?しかも今週末、って今日月曜だよ???』
「那覇から1830分の宮古島行きに乗るから、それに間に合うように頼むね~。」
『頼むね~って……。』

しづえさんとの出会いは、女性労働協会の認定講師育成講座だった。
受講生は日本全国からの選抜、半年間の長丁場。
しづえさんは宮古島から、私は岩手からの参加だった。
初めて目に入ったしづえさんはグレーヘアーで、見るからに素敵な女性、挨拶やグループワークで一緒になったぐらいで、ほとんど話はしなかった。
でも、初めての人に対して起こるこの魂に触れた事ある感覚は、彼女を目にした一瞬に発動した。
講座終了1ヶ月後にフィードバック研修があり、しづえさんの参加が気になりお礼を含めてのメールを送った。
彼女からのメールは、「日程が合わなく欠席します。」、とあり残念な思いが胸に広がった。

フィードバック研修当日、開始時間を待っていたら正面のエレベーターから来ないはずのしづえさんが素敵に歩いて来るのが見えた。
『!、しづえさ〜ん!』と声を掛け手を振った。
早朝に今日の仕事がキャンセルになり、朝一の羽田行きに飛び乗ったしづえさん、
二人で再会を喜んだ。
お昼になり仲間とレストランに入り、正面にしづえさんが座り、私に一言。
「薫子さん、あっちの人やね。」
私がしづえさんと初めて出会った気がしなかった理由もここでわかった。
この魂に触れた事ある感覚の発動は、正解!

しづえさんは埼玉県出身、60歳の時に宮古島の神に呼ばれ、旦那さんと宮古島に移住した。
神の存在を肌で感じ、天に描かれる文字を転写する書道家でもある。

フードバック研修後から1週間後に、このしづえさんからの今週末那覇で待ち合わせの誘い、しかも“神の国 宮古島”からの誘い、何かあるからのこの誘い、断る理由が見当たらなかった。

岩手花巻空港から宮古島までのチケットは、何としてもマイルで購入したかった。
何故って、マイルでチケットを購入出来ないとなるとかなりの出費が見えていた。
だからマイルでチケット購入が絶対条件だった、なぜってそんな余裕のある懐では無いからだ。
そして今週土曜日の航空券マイル購入期限が明日だという事に気づき、焦った。

マイルで取れる席は少なく、取れなかったら縁が無かった、取れたら行くという事にして、執着しないように心を整え、マイルで購入できる最終日の朝を迎えた。
しづえさん、もう少し早くに連絡してよ!って呟きながら、この
日を何故か半年前から休みにしていた啓にマイルで絶対購入を託し、私は仕事に向かった。

仕事から帰りドキドキしながら啓の顔を見た。
驚いたような顔をしている啓、心ここにあらずな感じに見えた啓は、
「薫子ちゃん、大変なの。」
『チケット無理だったんだね、休みなのに忙しくしてしまって……ありがとう、啓』
「そうじゃないよ」
『……なに?』
「あのね往復Jシート、しかもマイルで取れたよ。そして何故だか200ポイントマイルがプレゼントされた……。」
『!?』
「マイル使ったのに、プレゼントされた」
『???』
やった!私行ってもいいんだ!嬉しい!宮古島に行ってくる!しかも宮古島までの往復の旅費は0円!
いつも良いところで働いてくれる啓、ありがと啓!今回も大金星だね!

週末、蘭の香り充満する那覇空港にしづえさんが笑顔で手を振って待っていた。
「よく来たね」
『よく来たね、って、あなた、呼んだじゃない!?』
「彼女は必ず来る、ってツル子さんが言ってた。』

初めて聞いた名前だった。

初めての宮古島、どこに行くのも教えてもらえずに宮古島の街中を窓全開で、しづえさんは車を走らせた。
「着いたよ、薫子さん。」
『着いたよ、ってどこ、ここ?』
車は、これぞ沖縄の民家!って前に停まっていた。

シーサーが置かれた門構え、赤い瓦屋根の沖縄独特の家、“神の国 宮古島”の民家、何が待っているのか、起こるのかドキドキした。

部屋いっぱいに充満する嗅いだ事の無いお線香の香りがした。
そして見た事も無い大きな祭壇が壁に組み込まれている。
その祭壇の中にお線香の灰が山盛りになり、ヒゲの初老の絵が掛かっていた。

その前に女性が座り私を見た、カンカカリャー根間ツル子師だった。

私を見て宮古島の言葉で何かを私に伝えた。
なんと同じ日本なのに、言葉が聞き取れない、わからない。
私に向かって話しているのだけれども、何を話しているかわからない、しづえさんを困った顔で見る。

彼女は慌てて通訳してくれた。
「待ってたよ、薫子さん。よく来てくれた。」だったらしい。
えっ!?私を知っていたの?しづえさんが話したのだな、と思った。

カンカカリャーツル子師は、何かを唱えながら香炉に線香を立てた。
もくもくと煙が上がり、少しむせた。
「薫子さんが来た事で神が降りてきた、
“神判”始まるよ。」、しづえさんが教えてくれた。

膝を手で打ちながら音を整え祈るツル子師、祈っているうちにだんだん神がかりになり、その音の中に神の真意を見出して行くようだ。
この肉体では聴いたことはなかったけれど、懐かしい心地よい音だった。
朝早くから飛行機を乗り継ぎ疲れていた身体に、その音は体の隅々まで、心の隅々まで、静かな波だがぐんぐん迫りしっかりと響き渡っていった。

祈りが終わり、ツル子師の声が私に響く。 
「神が言って来た。薫子に頼みがある。神々のお慰めに行ってもらえないか、来てもらえないか。神々の和合も頼む。」
『?』
「呼んでいる。」
『!』
「呼んでいるんだよ。薫子さんを日本中の神々が呼んでいる。」
『???』
「行ってくれないか。」
『ど、ど、どこに?なんであたし?……なんで?』
「神が呼んでいるんだよ、薫子さんに拝んで慰めてもらいたい、って。」
……そんな、神がなんで私を?神が呼んでいる……どういう事?』
「やるのか、やらないのか、どっちだ?」
『やるのか、やらない、って……
「やってくれるのか、やってくれないのか、って”神”が伝えて来ているんだよ、薫子に、って!」
『!』

この状況がよくわからない、……理解できない……。

突然に那覇で待ち合わせと言われ、連れ去られるようにここまで運ばれて来た私。
そこで、神が私を呼んでいる?お慰めって何?どうして私なの?と。

ツル子師としづえさんが何やら話しているのだけれど、言葉がわからないので何を話しているのかわからない。
訳が分からない状況だから気にならなかったけれど、それにしてもそれがやけに長い。
チラッチラッ、と話の合間に私を見る二人。

なんとなく、この間に決めないとならないのかな?
もしかして考える時間を与えてくれている?、とだんだん察した。

気を取り直し、落ち着いて考えたら”神”が、”神”が私に言って来ている、頼んで来ている。
“神”に頼まれごとをされる人なんて、聞いたことがない、禰宜さんや宮司さんでもあるまいし……。
でもなぁ、家系的な事を考えたら、この頼みもわからない訳もないけれど、それでもなんで私?
他にもいっぱいいるでしょ、それに沖縄周辺に神高い人はたくさんいるし、こういうの好きな人も……。

……ここまでのチケットやマイル、マイルボーナス、宮古島までの辿り着いた流れを考えたら……
もしかしてこれは……大きな事に巻き込まれている?
これってお役目を言い渡されているのか?
その事がだんだん、だんだん見えて来た。

あっ〜!そう言えば、晴明神社の宮司さんに言われたじゃん、「お前には役目がある」って、もしかしたらこれ?これなの??だったらお受けしないと!、言わなきゃダメじゃん!ほら!
『行かせて頂きます!』

ぐるぐる色々考えている間にもう一つ、ある問題が見えて来た。
先立つもの。
日本中の神々の元に行くのは”
神の頼み事”として良しとして、資金は誰が出すの?どこからか出てくるの?何かどこかに基金があるの?
宮古島カンカカリャー協会なるものから、援助とかあるのかな?……。
今回の宮古島までは運良くマイルで来れたけれど、いつも取れるとは限らないし、ボーナスポイントをもらえたけれど、それでは全然足りない。
今のこの状況で、尊いお線香が漂うこの空間で “お金”、と言う言葉を発するのを憚れる雰囲気は十分……。
どうしたらいい?こんな時に助けを求めるのは啓しかいない、助けて啓!、頭の中で叫ぶ。頭真っ白!
また振り出しに考えが戻っちゃうよ。

ここまでの三人のやり取りがすんなりこのように進んだわけではない。
“神”がツル子師に神判を下す、それをツル子師が受け伝えてくれる、直ぐしづえさんに目線を写す、しづえさんが私にわかる言葉で伝える、しづえさんに返事をする、それをしづえさんがツル子師に伝える、ツル子師は”神”に伝える。

同じ日本なのに通訳が入らないとわからない言葉がたくさんある宮古島。
紺碧の宮古島ブルーの海の色からは計り知れない歴史を積み重ね、祈りの中で生きてきた宮古島の人々の中に、今、自分が存在させて頂いている、ツル子師の祭壇の香炉の灰を見つめながら、私は何を悩んでいるのか、何に不安なのか……。
……
お金が無かったら稼げばいいじゃない、誰でもない、”神”が私に頼んで来ているんだ、人間なんて!って経験をたくさんして来ているのに……暴れていた心が鎮静し、”神”と向あった。

『私、行きます、行かせて頂きます!』

こう言った瞬間に、電源を切っているはずの携帯が鳴った。
電話の主は啓だった。
「振り込まれると思わなかったから言わなかったけれど、以前に交渉していた住宅の保険料が、結構な金額で戻ってきて、さっき振り込まれたよ!」
なんですか?このタイミングにこの内容、戻ってからでいいじゃない、この内容なら……。

あ゛っ、“神は試す” ……ここぞと言う時に、思い出した。

カンカカリャー根間ツル子師 〜託されし神事〜 に続く。