アニミズムに出会う幸せ

Japanese

県の公舎に住んでいる時の朝だった。
啓は県職員、息子の雄人は高校生1年、私は県の水泳連盟地域指導者委員会副委員長として指導者育成に尽力していた、それぞれが忙しい中での三人一緒の久しぶりの休日の晴れた日の朝食時だった。

ある音が通り過ぎた時に三人一緒に顔を上げた。
言葉には出さないが、三人の耳に届いた音、この音は?あの……音?懐かしい音……あの音にそっくり……?でもなんでここで聞こえる?、あり得ない、三人が同じ事を思った。

あの音とは、北海道で暮らしていた時に乗っていたRVRのクセのあるファンベルトの音、岩手に越してくる時にもあの音がしていたRVRでフェリーに乗って来た。

Timも一緒に暮らしていた小樽の桂岡、オーンズスキー場と同じ標高にある桂岡では4wの車が必須だった。
RVRは私たちの生活にはぴったりだった。
エンジンはディーゼルで燃費も良い、グリルガードがついていたので、除雪が入っていない大雪の日でもRVRが走れば除雪も出来た頼もしい車だ。
後ろの椅子はベンチシートでスライドし、小学生の雄人はゆったりと独り占め、日に日にでっかくなって行くTimはスライドされた広々した足元に、窮屈なく寝そべる事が出来た。
後ろを振り返ると、雄人とTimはスヤスヤ寝息を立ていつも幸せそうだった。
雄人の柔道の送り迎え、Timの盲導犬協会での研修や検診に、毎年の富良野までのランベンダーの香を堪能する為に、仕事と、私たちの生活には欠かせない、いつも一緒の我が家の愛すべき存在だった。

そんなRVRも盛岡に来て暫くして手放す時が来た。
手放す前の日に掃除をしていると盲導犬協会で頑張っているTimの毛を見つけたり、北海道で暮らしていた時の事がたくさん思い出された。
私たちの所に来てくれて安全に、色々な所に運んでくれてありがとう、楽しかった。どこかで誰かのためにまた走るのならば、がんばってね。廃車になるのならば、悲しいけれどお疲れさんだね、がんばったね、と言って労い、手放した。

三人一緒に聞いたのは、そのRVRのクセのある耳に懐かしいファンベルトの音だった。
ポツリと啓が一言、「実はあの音は何回も聞いていて、気になってた。偶然に止まっている場所も見つけた。」
『どこ!?』
真夜中にそろりとそこに行ってみた。

県の公社の向かえの家の後ろにある駐車場に、よく似たそっくりな色合いのRVRが止まっていた、傷も同じ所にあった。
思わず、『付いて来たの?……啓ちゃんも雄人も私も元気よ、Timは北海道で訓練しているよ。』、って泣きながらさすりながら、言っていた。

翌朝、ディラーに『RVRってどこに行ったの?』、「新車購入のお客様がいて、初心者の方で初めての雪道を4wの新車で走るのは怖く、納車まで時間があるので、その方がRVRに乗っています……あっ!盛岡にお住まいですよね、その方盛岡です!」、『その方、多分うちの向かいに住んでいる方と思う』、「えっ!」。

暫く毎朝届いていた懐かしいたくさんの思い出詰まったあの音は、春が来て届かなくなった。

全ての物に命が宿る、アニミズム……。

 

コメント

  1. 森敦子 より:

    先日のイベントのときに、啓先生からまさにRVRのお話をお聞きして、イベントに参加していたまさにそのRVRに乗っていた方を紹介していただきました。
    不思議いえあり得ないようなことだけれどもう全く不思議じゃない。凄く素敵。だから、モノをとても大切に感謝して使っていらっしゃることも、モノを大切に感謝して使うことを教えていただいたと、書きながら私も最初の車RVRだった!てなんだか嬉しくなりました。(たぶん初めてお話すると思います。千葉から一緒に盛岡にきてしばらく生活をともにしていました。)
    ということを書いていたらニュースで奥州の建築士会のみなさんが幼稚園でお家を建てるイベントの紹介をしていて1人でわちゃわちゃしました。
    最初の写真も、最後の写真もとっても素敵です。盲導犬の世界を教えていただいたことも感謝しています。いつもありがとうございます。

    • kaoruko kaoruko より:

      えっ!あっちゃんもRVRだったの?盛岡で乗っていたのね。
      いい車だったもんね。
      確か、もうひと方、私も乗ってました!ってコメントあると思う。w

      アニミズムに触れると、何でも愛おしくなるんです。
      あっちゃんもこの感覚に触れてね。

      おう、建築士会のこのイベント!、もう20年になるようです。
      ここから、建築士発掘をしたいらしい。
      こういう時にこういう事が起こる“わちゃわちゃ”、すごくよくわかる!

      このブログ書き終わって気づいた事、今日はTimのお誕生日だった!
      わちゃわちゃしたw

  2. かなみ より:

    幸せそうに眠っている雄人さんとTimくんを見て、幸せを感じている先生が目に浮かびます!!
    その素敵な空間を作ってくれたのも愛車のRVR…
    車も家族の一員ですね。

    きっと会いに来てくれたんですね。
    そしてもう一度幸せな思い出を思い出させてくれるなんて…
    なんて素敵な出来事でしょうか。

    物にも命・感情があるんだと強く感じる内容でした。
    感謝する相手は無限にいるんだということを教えていただき、有難うございます!!

    • kaoruko kaoruko より:

      そうだね、かなみちゃん、感謝することに包まれて私たちは、生きているね。
      私たちは、一人で生きているんじゃない、って事にも気付かされる。
      感謝だね、日々……。

      うん、こうしていつまでもRVRの話ができる事が、もう家族!
      素敵な出来事と思ってくれて、とても嬉しいです、ありがとう。

  3. MIKA より:

    先生、我が家も息子が幼稚園の時RVRでした(≧∀≦)
    その頃はキャンプにも行っていたので、とてもピッタリ!
    カッコ可愛い車でした。

    でも、先生からRVRのお話しを伺うと〝我が家のRVRごめんなさい〟と思います。
    いつも一緒にいたのに〝ありがとう〟と伝えていなかった。感謝がなかった。

    先生の一言一言から本当にたくさんのことに気づかせていただき、學ぶことを教えていただき、感謝することを教えていただきました。
    目の前が開けて行くように感じとても嬉しいです。

    いつもありがとうございます。

    • kaoruko kaoruko より:

      来た来た、RVR仲間(^O^☆♪
      MIKAさんの所のRVRは“カッコ可愛い”車だったのね。
      うちは豪雪地域だったから、そこを走るRVRは、やっぱり“頼もしい”だったな。

      目の前が開けて行くような感じ、なのね。
      その感じ忘れないで、様々な事に触れていってね。

      何にでも感謝の気持ちを持つと、もっと何かが開けるよ!
      お試しあれ!

  4. ゆか より:

    凄い素敵なお話です。先生のRVR、先生達についてくる…なんて愛おしい!

    本当に全ての物に命が宿っているんだ、とハッとさせられ、同時に今までの自分に焦りを覚えました。

    『物を大切に!何に対しても感謝する!』子供に注意する前に、まず自分から改めます。

    • kaoruko kaoruko より:

      生まれつき持っていないとなかなか難しい感覚が “アニミズム” 。

      お子さんに注意でなく、“意識” して行くように親としての言葉がけが大切です。
      そうすると自ずと親であるゆかさんも意識できるよ。

  5. eiko より:

    先生のあったかいブログを読み我が家の車を手放した時に、最後車の中で「遠くまで連れてってくれてありがとう、いろんなところに連れてってくれてありがとう」と伝えたことを思い出しました。

    読むとその時の感情を思い出し、胸があったかくなりました。

    車を手放すって大きなことでしたが、身近なものこそお世話になってるのに感謝することスルーしてるって気づきました。
    感謝し、伝えること、意識し続けることを意識していきます。
    先生、ありがとうございます。

  6. ゆみこ より:

    RVRが先生のご家族にどれ程愛されたか、しっかりと伝わってきます。

    そして、先日先生がボールペンにも命が宿っていることを例にとりアニミズムのことを話してくださり、認識を新たにしました。

    そう考えると、丁寧に生活していくことになると思いました。
    自分の今までを考えたら、ごめんなさいと周りのものたちによろしくね、ありがとうという感謝の気持ちがわいてきました。

  7. naomi より:

    私は「ありがとうございます」だけで、自分の思いを伝えられず、相手のその先の事まで考えられていなかった事に気がつきました。

    薫子先生は、私たちの所に来てくれて安全に、色々な所に運んでくれてありがとう、楽しかったと伝えてらっしゃいます。さらにこれからの事についても誰かのためにまた走るのならば、がんばってね、廃車になるのであれば、悲しいけれどお疲れさんだね、がんばったねと伝えてらっしゃいます。

    それは、嬉しく嬉しくてまた薫子先生に会いに付いてきてしまうRVRの気持ちがよくわかります。そして泣いてさすってもらったら、会いに来てよかったとRVRも心から喜んでいたと感じました。

    私も見習って、物に対しても人に対しても感謝と自分の思いを伝え、相手のその先の事を考えられるようにしていこうと思いました。

    • kaoruko kaoruko より:

      naomiさん、同じ気持ちになってくれて、ありがとう!、嬉しいです。

      そう、まずは真似をして學んでいこう!