尼の牧子さんとの出会いは21年前、花巻のなはんプラザ内のカフェオーナー権利がクジで当たり、カフェ“Ravenna”のオープンの日だった。
出会った時はまだ尼さんではなかった彼女、その日は自身のピアノ教室の発表会、共に晴れやかな日の出会いとなった。
最初のお客様がフラッといらした。
「すみません、お水を頂けますか?」、(なんたる顔色、まっちろ!着てるドレスが悲しげ……。)
『はい!』(大丈夫か?)
「生徒のピアノの発表会なのに、急に具合が悪くなってきて……。」(今にも倒れそうだ……。)
『発表会ですか!?直ぐに良くならないとならないですね。』
「薬も無くて……まずお水を……。」
『緊急時に飲むお花のお水があるのですが、入れてみますか?』
「何でもいいので、入れて……。」
冷蔵庫から、真新しいバッチフラワーレメディBOXを取り出し、レスキューレメディを4滴入れた。
数時間後彼女はたくさんの花束を抱え、晴れやかにRavennaに現れた。
「先ほどは、ありがとう!とても助かりました。あなたは何を入れてくれたの?」
牧子さんとの不思議なお付き合いが始まった。
ある日牧子さんから、薫子ちゃんに渡したいものがあるから家に来て、と連絡が入った。
地図を頼りに向かうと、とても大きなお屋敷に辿り着いた。
三間はある玄関!
扉を静かに開くと欅の上がり框、漆塗りの黒光の廊下、一緒に行った建築家の啓は目を輝かせた。
人影が見えて、耳慣れた声が届いて来た。
「薫子ちゃん!」、牧子さんの優しいゆっくりな声が高い天井にやわらかく響いた。
牧子さんは、私に手を出してと言い、“黒い長方形の箱” を手渡した。
「これ、薫子ちゃんのだから。」
『???』「これは薫子ちゃんのなの。」
『なに?私の?』
「そう、この筮竹は薫子ちゃんのなの。小学生の時、祖父が亡くなる時に呼ばれてこう言われたの。将来牧子が出会う人にこの筮竹を渡して欲しい。今はまだ現れていないけれど、必ずこの人だってわかるから、その時に牧子から渡して、と言われたの。」
牧子さんはお寺に入るために家の整理をしていた。
その時、小学生の時に手渡されたこの懐かしい大切な筮竹を見つけ、おじいちゃんの遺言を思い出し、“薫子ちゃん!“だ、とわかった、と言い、私の両手にその“黒い筮竹の箱“を置いた。
「その筮竹、岩手にとって花巻にとって、宝と同じくらい大切だから、とも祖父は言ってた。」
『えっ!!そんな大切な……私、受け取れないよ。』
牧子さんは困っている私の顔をじっと見て「薫子ちゃんが使うんだよ。薫子ちゃんが来るのをずっと待っていたんだから、この筮竹。」
北海道から越して来て岩手で初めて出来たお友達の牧子さん、彼女との出会いが、私の封じられた能力の扉を微かに叩く最初の音になった。
今、牧子さんは尼になり禅寺にて“迷える魂”に、仏の言葉を厳しくも愛を込めて、伝え続けている。