彼女は二度私の前にいらしてくださっている。
一度は天に現れ、二度目には彼女は地上に降り立ち、小さき私と会話して下さった。
今から23年前の私が36歳の時、私は覚悟と責任を受け入れ、12歳になる息子の雄人と大学を卒業したばかりの啓と結婚し、以前から北海道盲導犬協会にボランティアに登録していた為、パピーで我が家に来た盲導犬候補犬ティムとの生活を始が始まった。
ティムを含め三人が毎日、自分が家族のために何が出来るかを見つけ、互いに支えながら生きた。
楽しい時間だった、と言えるまでには未だになってはいない、辛く悲しく、悔しい事が深すぎたからだ。
そして、それは簡単に私の身体にダメージを与え、表面化するのにそう時間はかからなかった。
雪の降る朝、目が霞み始め、光しか感じなくなり、息子の雄人の顔がぼんやりとしかわからなくなった。
啓どうしよう、私、目が見えないよ、どうしよう、これでは彼を育てられない、泣きじゃくった。
すぐに病院に車を走らせた。
しかし、ドクターは目に異常は見当たらない、と診断した。
ティムの散歩でも見かけない、出ていない、PTAにも顔を出さない私を心配した珠ちゃん(北海道で出来た最初のお友達)は、これは大変!と心配して腕の良い鍼の先生を連れて来た。
鍼を打ったら体が益々重くなり、全身がだらりとして力が入らなくなった。
「鍼で体が動かなくなってしまう体をもっている人がいると鍼灸学校で學んだが、それが薫子さんです……自分の所ではあなたを治療するのは無理です。」、 珠ちゃんの気持ちを考えると申し訳なかった、ごめんね珠ちゃん。
次に彼女は音楽療法の“テルミー奏者”を枕元に座らせた。
不思議な音色が響く中、火のついたお香が枕元に落ちて火の粉でシーツが焦げた。
慌てている珠ちゃんを感じ、シーツ焦げちゃったけれど彼女の愛に感謝した…ありがとう、と彼女の愛に感謝した。
家の事も出来なくなった。
声しか二人に掛けられなくなった。
泣きながら寝る時間も多くなった。
そんな時だった。
足元にある壁が眩しく光始めた。
壁はどんどん光に包まれ、光の中から輝くマリア様が向こうから歩いてきた。
目が見えないはずなのに、こちらに向かってくるのが “マリア様” とわかった。
マリア様は、やさしくやさしく私の頭を何回も何回も撫で、そのやさしい手を肩に置き耳元でやさしい声ではっきりと囁いた。
「次に目が覚める時には目が見えるようになっているからゆっくりお
驚いて目を見開いている私に、マリア様はやさしく微笑み、そのやさしい微笑みの中でうなずき、私は目を閉じた。
3日目の朝、雄人の顔がはっきりと見えた。